CEマーキングへの適合を目指した背景やその目的
現在、東レでは「グリーンイノベーション分野」と「ライフイノベーション分野」の 2 分野における事業拡大を、中期経営計画の重点テーマとして掲げ、これらの強化・推進を行っています。また、今回 BSI社にCEマーキングの審査・認証を依頼した防護服の開発プロジェクトは、ライフイノベーション分野における本重点開発テーマの一つとして設定しています。
当社は、繊維・フィルムの素材に強みを持っている会社であり、自社の材料が持つ優位性・技術を活用して先進的な分野での新製品開発・新事業創出を全社プロジェクトとして掲げ、力を入れて取り組んでいます。防護服といっても様々なものがありますが、弊社では工業用の化学防護服と医療 分野で使用する感染対策衣の 2 つの分野における防護服の開発に力をいれ ています。この 2 種類の防護服の中で、今回先行してCEマーキングの認証を受けたのが感染対策衣です。この感染対策衣の事業化の際、CE マークの取得が非常に重要という認識を持ち、BSI社に審査・認証をお願いしたという経緯があります。
防護服での認証取得を目指すことになったきっかけ
CEマーク取得以前の話として、そもそも何故防護服の新たな開発に着目したかということですが、きっかけになったのが2011年に発生した東日本大震災でした。原発事故後、除染作業で多くの防護服が使用されましたが、現場からは炎天下の中での作業に支障がある(防護はできるが、 着用するとかなり暑く、熱中症になる方が多くいらっしゃった)というお話を耳にしていました。そこで、弊社内から、着用感に優れた作業がしやすい新しいコンセプトの防護服の開発ができないか、という話が持ち上がり、開発がスタートしました。この取り組みには、社会貢献の一環(東レの技術を被災地に活かしたい)という側面もありました。そして、このような経緯で開発された従来の製品よりも着心地の良い防護服は、実際に福島でも使用されました。
この経験をもとに、東レの技術が活かせるということを実感し、今後も同様の活動を進めていこうという話になりました。「性能アップに注力するだけでなく、もっと使い勝手が良いものができるのではないか?」という想いからはじまり、進んでいったプロジェクトです。防護服というと、「防護」という観点に偏りがちですが、弊社は「衣料メーカー」として、着用する方の「着心地」にも着目し、弊社の強みを生かしながら製品開発を進めていくという取り組みを新たにスタートさせたのです。
CEマーク取得までの取組みにおいて、 工夫された点やご苦労話、その他特徴などが ございましたら、お聞かせください。
感染対策衣におけるその防護性能や着用感は、「実験室レベル」ではいくらでも検証が可能です。しかしながら、それだけでは我々が狙っているその製品の効果が現場できちんと出ているのかどうかが不明瞭な点が多いため、我々は現場での検証を非常に重視しております。特に現場の方々に実際に使用してもらい、その生の声を製品に反映させていくという作業は大変ではありますが、同時にとても重要であると考えています。
ギニア共和国・コンデ大統領との記念写真
先に CEマークを取得した感染対策衣においても、本格導入前に、実際にエボラ出血熱が発生したギニア共和国の現場に出向いて、現地の医療チームメンバーと共同で実証試験を行い、その結果をフィードバックさせて戴きました。この実証実験によって現場からの声を反映させ改良をした本感染対策衣は、実際に現在ギニア現地で活用され、東レの技術が役立ったという大きな喜びがありました(注※)
ギニアでの実証試験の様子1: 着脱訓練
ギニアでの実証試験の様子2 : 内部に温湿度計を入れ、快適性を確認中
ギニアでの実証実験をするにあたっては、「東レの製品にはCEマークはついているのか?」というところから始まりましたが、そもそもCEマークの取得をして初めて舞台に立てるという現実があります。 認証を取得して良かったというのはもちろんですが、それがスタートラインに立つ最低限の条件であったというのも事実です。
※東レ社は、本感染対策衣を1 万点ギニア共和国に寄贈し、コンデ大統領 から感謝の意を戴きました。
一方、同じくCEマークを取得した、後発の防護服についても着心地の改良には力をいれました。(前述の)感染対策衣よりもより通気性をアップさせ、かつ粉塵を通さないという特徴を持った製品になります。 こちらも現場の声を反映させた製品作りを目指しながら、感染対策衣と同様のプロセスを経て、着心地のより良い製品に近づけるよう努力を続けて参りました。
本分野においては、東レはまだまだ新参者であるため、経験、実績とも に他社と比較して足りない点もあるのは事実です。しかしながら、今後もユーザーからの声に耳を傾けることを重視し、製品の開発・改良に取り組み、少しずつ実績を積み上げていくことによって自社製品の信頼性を高めていきたいと考えています。
CEマーク取得に向けた取組みを行うことによる成果や良かった点は何ですか。
実は、感染対策衣に対する世界的な規格というのがあまり存在しない中、安全性を担保できる仕組みというものが中々無いというのが現状です。したがって、製品がCEマークを取得しているという事実は、その製品における一定以上の安全性が担保されていると見なされます。その点で、認証を取得するメリットは十分あるといえます。
東レの感染対策衣がCEマークを取得した後、WHO(世界保健機関)から関連製品に関する問い合わせがありました。WHO もギニアの件を踏まえ、感染対策衣の着用感にかなり注目をしているようでした。 現地で使われている他社様の製品は着用するととても暑く、どうしても 着崩して着用してしまい、結果それが医師や看護婦の二次感染につながっているという事実があったとのことで、着用感を重要視するようになったそうです。このような世界的な機関からの問い合わせを受けるのも、CEマークを取得していることが大前提であるということを実感しています。 また、別の機会にヨーロッパの展示会で本製品を提案した際も、CEマークを取得していること が大前提での中での商談のスタートでした。より良い製品の開発はもちろん重要ですが、加えてそれを普及させるためには、まずそのスタートラインに立たなければならない。そのためのCEマーク取得と考えると、その取得は必要不可欠なものであると我々は考えております。
東レ株式会社 環境・エネルギー開発センター 環境資 材開発室 室長
兼 ライフイノベーション事業戦略推進室 主席部員 武田 昌信 様
今後の展開や目標をお聞かせください。
感染対策衣や化学防護服の分野で事業の拡大を進めていくためには、製品 のバリエーションを広げていくことが重要です。防護服といっても、防護の対象が幅広く多岐に亘るため、「品質」と「ラインナップ」を揃えておくことが必須です。そして、そのラインナップにおいては東レの素材を使った 高価値のものを使って広げていきたいと考えています。そのうえで、対象マーケットを考えたときに、日本国内だけではなく、海外の多くの国々でアピールするために必要な製品の安全性担保の手段として、CEマークは我々にとって非常に重要なものです。今後もCEマークを取得した新たな商品ラインナップを考えていますので、是非ご注目ください。
東レ株式会社 環境 ・ エネルギー開発センター 環境資材開発室
主任部員 林祐一郎 様
BSI を審査機関としてお選びいただいた理由と経緯についてお聞かせください。
CEマーキングを審査できる機関を探すにあたり、まず日本に窓口があるということが必須でした。CEマーク取得という初めての試みにとり組む中で、日本語でのコミュニケーションは外せないと考えたからです。 BSI社はその点、日本国内に拠点があり、また製品認証の専門家もいます。加えて、審査認証機関としてヨーロッパにおける権威があるという点も、我々が探していた審査機関の条件に合致しました。
BSI の審査はいかがでしたか。 よかった点、改善の必要がある点、または期待する点など、お聞かせください。
CEマーク取得にあたっては、非常に親身に相談 に乗ってくれ、また丁寧に対応していただき感謝しています。取得までのスケジュールがかなりタイトに なってしまい、無理を言ってかなり前倒しで対応いただ きました。これらの点につきましては、弊社としても非常 に満足しています。CEマークを取得するにあたって、関連する技術資料を作成するところから始まったのですが、それらの資料を作成する際にも、作成の目的(認証取得を目指すにあたって、各資料にどのような意味があり作成が必要なのか)を丁寧に説明戴き、こちらも浮上した疑問をその都度解決することができたため、とても進めやすかったです。また、イギリスの BSI本社と東レ間におけるコミュニケーションが円滑にいくよう、上手く間に入って対応してくれ、本当に助かりました。現在、中国でもCEマーキング関連の審査を行っていますが、認証取得までのプロセスを通して、品質向上や意識改革という面で、現地のメンバーにかなり良い影響を与えています。現場レベルでそれらの考え方が浸透したという点が非常に良かったと思っています。