量子コンピューティングの台頭は、私たちの社会のサイバーセキュリティへの新たな挑戦とも言えます。幅広い普及と低価格化により利用しやすくなった量子コンピューティングは、さらに多くの人々や産業に開放されると考えられるツールです。
しかし、量子コンピューティングは誰もが利用できるものになるべきなのでしょうか。潜在的な課題と利点を探ってみましょう。
量子コンピューティングの発展
量子の概念は15年以上前から発展してきました。この名称自体は、量子力学の法則を利用し、従来のコンピュータには複雑すぎる問題を解くコンピューティングを指しています。
量子コンピューティングは、このように高度なパワーを持つことから、複数の計算を同時に行うことができます。量子コンピュータはスーパーコンピュータより小型で、従来のファンより低温の超流体や、電子が無抵抗で動くことを可能にする超伝導体など、技術的機構を使って動作します。
しかし、サイバーセキュリティの観点で、それは何を意味するのでしょうか。こうしたコンピューティングの進歩によってコンピュータはますます手ごろな価格となり、ますます多くの個人ユーザーに市場が開放されました。ユーザーが増えれば潜在的な課題も増えます。
量子コンピューティングがもたらす課題
量子コンピュータが持つ高度な能力は、標準的なコンピュータやスーパーコンピュータより高速、複雑、強力であることを意味します。
パスワードクラッカー(暗号化されたデータを解読するハッキングツール)を考えたときには、サイバーセキュリティへのリスクが浮かび上がってきます。通常、これらのハッキングツールが暗号を解読するまでには時間がかかります。
しかし、量子コンピュータなら、多くの暗号化スキームを破ることができるかもしれません。その結果、バンキングデータやその他の個人情報を含め、データを暗号化している全ての人たちのサイバーセキュリティを危険にさらすことになります。
逆に、量子コンピューティングは、高度な暗号技術により個人データのセキュリティを強化する可能性も秘めています 。この種の強力なコンピューティングは、社会に新たな利用機会をもたらす可能性がありますが、それは、サイバー犯罪者を含む個人ユーザーの利用機会も同時に広がる可能性があることを意味します。
量子コンピューティングが開く可能性
量子コンピューターがもたらす幅広い可能性について考えるときには、それがライセンス可能になるのか、それともオープンアクセスで利用できるようになるのかを考えなければなりません。量子コンピューティングへのアクセスを最大限に戦略的に、かつ慎重に管理することは、将来のサイバーセキュリティを強化する上で役立つでしょう。
モノのインターネット(IoT)は量子コンピューティングの恩恵を受ける可能性があります。IoTが直面する多くの課題を量子が解消できる と考えられているからです。ガジェットやシステムが人間の介在なしに接続されるようになり、量子がもたらすセキュリティがIoTのインテグリティと発展をさらに後押しする可能性があります。
それでは、量子コンピューティングの可能性とサイバーセキュリティへの潜在的リスクのバランスはどのように取ればよいのでしょうか。
量子がより手頃な価格になり、より幅広い社会がアクセスしやすくなったことから、考慮しなければならないことをいくつか挙げます。
1.規制と標準化
規制は確かにエマージングテクノロジーに取り組む役割を担いますが、イノベーションのハイペースには対応できず、時代遅れな陳腐化した規則になってしまうことも少なくありません。
これに対し、標準化アプローチはより効果的で永続的な解決策になりえます。標準化は原則に基づいて運用されるため、リアルタイムの進展に対応し、各セクターと政府に有効なリスク管理戦略を提示することができます。
2.保護の強化
内蔵型セーフガードの組み込みは、サイバー犯罪を阻止し、量子コンピューティングが不正ユーザーの手に渡るリスクを回避する上で重要です。
耐量子暗号の進歩は、従来のコンピュータと量子コンピュータのどちらからの攻撃にも耐えうるアルゴリズムを生成し、ピンポイントで特定する努力の賜物です。これにより、量子コンピュータのデプロイを超えてデータセキュリティが強化されました。
私たちの標準化への貢献をご覧ください
BSIは、量子コンピューティングの進歩に貢献し、目標とする技術規格の開発をサポートすることにより、大変重要な役割を果たしています。特に注目されるのは、2024年発行予定の「量子コンピューティング — 用語と語彙(ISO/IEC DIS 4879)」です。この規格は、この分野で共通用語を定め、標準化された用語と命名規則を守ることを目指しています。
私たちは、量子リソースシミュレーションの基本的要求事項を網羅し、「量子コンピューティングの概要(ISO/IEC AWI TR 18157)」、「プロビジョニング、予測およびマネジメント(ISO/IEC PWI 18670)」等のプロジェクトにも参加しています。