人身売買と現代の奴隷制度に対する社会的責任
モノとサービスが国境を越え、かつてないスピードで行き交う今日の相互接続型社会では、サプライチェーンという概念がかつてないほど重要になっています。
しかし、このグローバルな生産・流通ネットワークに裏の顔がないわけではありません。基本的人権の侵害である人身売買と現代の奴隷制度は、サプライチェーンに浸透し、企業の社会的責任に暗い影を投げかけています。
BSIの持続可能なサプライチェーン担当プリンシパルコンサルタントであるFred Waelterは、ある記事の中で、人身売買、現代の奴隷制度、持続可能なサプライチェーンの追求の間の複雑なつながりを詳細に分析し、組織がこれらの悪質な慣行に立ち向かい、根絶する必要性が差し迫っていることを明らかにしました。
サプライチェーンの脆弱性
世界的なパンデミックの影響に揺れる世界で、サプライチェーンの脆弱性が注目を浴びました。予想外の問題に直面した組織は、複雑に入り組んだ供給網を綿密に調査しなければなりませんでした。
しかし、注目と意識が高まったとはいえ、人身売買と現代の奴隷制度という憂慮すべき問題は、これらのシステムの中に根強く残っています。
個人は商品として扱われ、 強制労働を強いられ、犯罪組織に巻き込まれ、さらには性や臓器を搾取されます。
衝撃的なことに、こうした非人道的慣行は、搾取の影響を不当に受けやすい移民労働力に依存するサプライチェーンに根付いているケースが多いのです。
国連のSDGs
強制労働への取り組みは、 国連のSDGsの中で強調されている道徳的義務であり、戦略的な必須事項でもあります。SDGsの目標、特に5の「ジェンダー平等を実現しよう」と8の「働きがいも経済成長も」は、全世界のビジネスレベルでの持続可能なサプライチェーンの重要性を強調しています。
これらの目標へのコミットメントは、組織を倫理的行動に関する国際基準に整合させるだけでなく、組織の評判を高め、全体的成功を後押しします。
厄介なのは、善意に見える組織においてすら深刻な違反が起こり続けているという現実です。世界中の企業が、知ってか知らずかこの緊急課題に巻き込まれています。
このことは、サプライチェーンから人身売買と現代の奴隷制度を排除するために、ビジネスリーダーが積極的に行動することがいかに重要かを示しています。そこで、その道筋を整備するために、組織が取り入れることのできる3つの予防策をご紹介しましょう。
自社の現状を知る:この旅は内面を見つめることから始まります。組織は、この問題に対する自社の立ち位置を慎重に考える必要があります。貴社は悪評を避けたいだけなのでしょうか、それとも本当の意味で変化を起こしたいのでしょうか。サステナビリティの専門家は、組織の立ち位置を評価し、現地の法律をしっかりと理解した上で、従業員とサプライヤーの両方をカバーするルールを確立する手助けをすることができます。
研修を通して意識を高める:ルールを決めることは重要ですが、その成否は実践にかかっています。効果的な研修は、従業員に基準を守るための知識と手段を与えます。このような行動様式は、意図せぬ人身売買への加担を防ぐだけでなく、慎重に行動する文化を生み出します。
サプライチェーンを知る: 組織は、知っていることから始めて、サプライチェーンを徹底的にチェックすべきです。これは、オンラインリサーチと現地訪問の両方を駆使して、可能性のある問題を見つけることを意味します。たとえ長年取引してきた相手だったとしても、それらの人や企業を定期的にチェックすることが重要です。また、現実的な期限を定めた契約を結ぶことにより、取引先の負担を軽減し、厳しい生産スケジュールに起因する違法行為を阻止することもできます。
持続可能なサプライチェーンを追求する過程で、企業は人身売買と現代の奴隷制度の弊害を事業から排除する重大な責任を負っています。
それは単なる法令遵守を超越したルールであり、人命の神聖さと尊厳を守る道徳的義務を表わしています。
組織は、自社の戦略を国連SDGsと整合させ、企業の社会的責任という理念を推進することにより、サプライチェーンがより良い社会と持続可能な世界に向かって進むためのルートになるような、前向きな変化の担い手になることができます。