気候変動リスク情報 ― 自主的開示を廃止するSECの提案
米国証券取引委員会(SEC)の規則改正案が、気候関連リスクを報告する組織に与えるであろう影響と改正案の潜在的な影響について、BSIサステナビリティ部門ナショナルプラクティスディレクターRyan Lynchが考察します。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が掲げる2030年の気候目標は、温室効果ガス(GHG)排出を少なくとも45%削減し、2050年までにGHG排出をネットゼロにすることを目指しています。
米国SECは2022年に気候関連開示規則の改正案を提出するという歴史的な一歩を踏み出しました。
2023年末に最終決定され、実施される予定の新報告規則は、IPCCの目標を達成するためには自主的な情報開示だけでは不十分であるというSECの考えを明確に示しています。
投資家のニーズに応える
公的機関には、気候変動リスクの影響を自主的に開示することが求められますが、開示パラメータが明確でないため、情報の質にばらつきが生じているのが現状です。
SECは透明性の向上を期待しています。新規則はこの点に対処し、投資家がより的確な情報に基づいて投資判断を行えるように、より高度で標準化された情報を提供することを目指しています。改正案を発表したSECのGary Gensler委員長は、より高い透明性の要請について次のようにコメントしました。
「本日の提案が採用された暁には、一貫性のある、比較可能な、投資判断に役立つ情報が投資家に提供されることになるでしょう。一方、発行体は、一貫した、明確な報告義務を負うことになります。……したがって、本日の提案は投資家と発行体のニーズに由来します。
提案のポイント
これはあなたの組織にとって何を意味するのでしょうか。この規則が要求事項になった場合、米国で事業を営む内外の上場企業は次のことを義務付けられます。
- スコープ1、スコープ2、さらに多くの場合スコープ3のGHG排出情報を収集し、報告する。
- 現在の二酸化炭素排出削減目標の詳細を発表する。
- 気候変動関連のリスクおよび支出の会計を開示する。
情報が追加されるということは、登録届出書およびアニュアルレポートで次のような気候関連情報を要求されることを意味します。
- 特定された気候変動リスクは、事業と財務業績にどのような影響を及ぼすか。
- 気候変動リスクが現在および将来の事業戦略に与える実際の影響、または与える可能性のある影響。
- 気候変動関連リスクの管理方法、および関連するプロセス。
- 特定の組織については、GHG排出量は保証の対象となります。
- 監査済み財務諸表への注記に、気候関連の特定の財務諸表指標および関連する開示事項を記載すること。
- 気候関連のターゲット、ゴール、および移行計画に関する情報。
民間部門の参画
これらの規則が民間組織に直接適用されることはありませんが、トリクルダウン効果が起きる可能性はあります。
例えば、貴社の顧客が株式公開企業である場合、それらの顧客は、貴社の慣行および製品に関する気候関連情報を自社の報告書に含めたいと言い始めるかもしれません。
あらゆるセクター、あらゆる国のすべての組織が、これらの規則の影響を受ける可能性があることは容易に理解できます。また、これらの規則は、他の規制要求事項と同じ重きをもって取り扱われることが予想できます。
要求事項を満たす
これらの気候関連要求事項案を満たすために、次の質問に対する答えを考えてみてください。
- 気候変動が組織にもたらすリスクは何か。
- これらのリスクを軽減するためにはどうすればよいのか。
- スコープ1、スコープ2、スコープ3のGHG排出はどれだけか。
- 先に述べた目標を達成するためのプランはどのようになっているか。
新規則を満たすことは、多くの組織に重い負担を強いることになるでしょう。― ISOネットゼロガイドラインは、利用可能なすべての選択肢を通して進路を描く上で役立ちます。このガイドラインは、主要なネットゼロ規格およびイニシアティブの現状をもとに、ベストプラクティスを一つに取りまとめたものです。新たな規制への対応法を含め、グローバルスタンダードに沿ったネットゼロ移行計画の策定または強化を支援することができます。
気候変動関連リスクマネジメントに関する報告の標準化と詳細化は、おそらく当たり前のことになるでしょう。戦略的パートナーシップ、関心、計画性を持つことにより、組織は要求事項の一歩先を進むことができます。BSIの専門家は、気候リスクアセスメント、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、CDP、規制要求事項に準じた報告、気候変動適応・緩和戦略を通じて、このプロセスを支援することができます。